2:青雁皮紙の特徴

雁皮の植物学的分類

 人によって異なるが、昭和15年〔1940年)丸善株式会社から発行された”雁皮聚録” 第三編にある内閣 印刷局の今井 久男、石川 福次郎氏の記載によると、雁皮はわが国においては古くより自生せるものを取り、衣服の原料に使用し、其後此れを以って紙を製造するようになったが、其の起源に至っては確実なる史蹟がないと述べております。

 また、雁皮はジンチョウゲ科に属し、その学名は(Wikstroemia sikokiana Fr.et Sav. と呼んでおり7種類の雁皮をあげているが、普通もっとも製紙用として用いられるのはキガンピ(Wikstroemia tricostoma . Mak.)であって紙質強靭であると述べ、其のほかのものはキガンピに比して劣るが、その中時々使用せらるるものに琉球に自生する大島雁皮(Wikstroemia retusa,A.Gray)があると記載している。

 一方、昭和51年(1976年)の”世界の植物”〔朝日新聞社)の浜田稔夫氏によるとガンピをガンピ属(20種あまりがアジア中部と東部に分布している)とアオガンピ属(50種たらずがアジアの東南部とオーストラリア、ポリネシア、ハワイ諸島に分布している)、シャクナンガンピ属(日本特産)の3種に分類しておりガンピ属の学名をDiplomorpha sikokianaHonda と呼んでおります。

 その中で雁皮紙の原料となるものとして
@ガンピまたはヤマカゴ、カミノキ(静岡の小笠山および石川県以西の本州と四国、また九州では佐賀県有田の黒髪山に限られる)
Aサクラガンピまたはヤマガンピ(ガンピの分布域の東側の伊豆半島と箱根)
Bシマサクラガンピ(サクラガンピとともに多量に採皮された。大分県以南の九州東側、甑島および屋久島)
Cキガンピまたはキコガンピ(近畿以西鹿児島県までと朝鮮半島南部の山林中。実生がつくりやすく、済州島で最近養苗がおこなわれているという)
Dアオガンピまたはカビキ(琉球列島、台湾の原野にあり果実は有毒で樹液でもかぶれると記載している)


八重山で自生している青雁皮

 
内地の雁皮と同様の性質を持っており雁皮の皮に含まれている靭皮繊維は光沢に富み、緻密 で粘りのある性質があり、紙になるとその特徴が紙に現れ、半透明のつややかな紙肌で、虫害のおそれが なく湿潤な場所に置かれても強靭な耐久性を持つ紙の王様ともよばれている紙です。(紙漉き七十年。安部栄四郎の世界。1982年。アローアートワークス社)。

 しかし、雁皮紙は製法の難しさ、栽培の困難さと乱獲の為に原料の入手が難しいので廃れつつあるのが現状であり、柳橋真さんは著書の“雁皮紙”(アローアートワークス社。昭和52年(1977年)の中で雁皮は九牛の一毛に過ぎないがその気品のある優れた紙が滅びるのは嘆かわ しいと書かれている。

 青雁皮は内地で使われている雁皮と同じ雁皮属の仲間であるが、雁皮の特徴である靭皮繊維 の光沢のある強さ、薄くても破れない特性を持っており、明治から大正昭和の初め頃まで謄写版用紙の原料として 多量に使用されたがその不足を補うため、八重山の各地から青雁皮を高知に送った事実があり、八重山の老人の多くは青雁皮を採取した記憶を持っております。



                     青雁皮紙の偏光顕微鏡写真





青雁皮紙のPAS染色
(PAS染色では多糖類が選択的に染色される)



青雁皮靭皮繊維は赤く染色されているが繊維にまつわる様に塊が認められ実体顕微鏡で観察すると粘液様の透明な物質であるが何から成り立っているかは不明だがほかの雁皮紙では認められない。




 上のPAS染色をした青雁皮紙を偏光フィルターで観察した写真

(青雁皮紙に多糖類を選択的に染めた偏光顕微鏡写真)
PAS染色で見えた塊状の物はグリーンないしは白色に見える。



 和紙に使用されている雁皮は今までは内地産が大部分であるが、青雁皮について私が透過顕微鏡、実体顕微鏡、走査電子顕微鏡で調べ、また青雁皮紙の抄造を行った所では青雁皮特有の素朴な美しさがあるものの、内地産の雁皮と本質的に大きな違いはみとめられない事が判った。

 また、内地の雁皮と八重山の青雁皮の靭皮が同一の物であるかをJIS規格のC染色を行って比較してみると写真の如 く同一の染色性を示しており雁皮紙として間違いないことが実証された。 (写真は元特種製紙株式会社宍倉佐敏さんのご協力によって提供されたもので、私の検査結果と同一所見を示しています)。


写真1:石垣博物館に所蔵してある青雁皮紙で造られた同治4年(1865年)の古文書のC染色 140倍
写真2:土佐雁皮紙のC染色 140倍
写真3:私が漉いた青雁皮紙のC染色 140倍
 いずれの紙も雁皮特有の紫色の細胞が数多く残っている。


    写真1:青雁皮紙のC染色。140倍


     写真2:土佐雁皮紙のC染色。140倍

 
写真3:私が漉いた青雁皮紙のC染色。140倍



 西表及び石垣で実験した結果では、実生の苗からの栽培を行えば完全に栽培が可能である事が確かめられ、現在で は八重山農林高校の協力を得て毎年実生の苗を育てて頂き、成長した苗を研究所に移植して頂いております。

 この目的は八重山にはまだ多くの青雁皮が自生しているが土地開発によって減少して来ており、また、青雁皮が八重山特産品で貴重な青雁皮紙の原料である事の認識を土地の人々に認識してもらう必要からはじめたのであり昨年9月青雁皮紙保存会を作ったのもその理由があっての事です。




   八重山農林高校で実生の苗を研究所に移植している風景




       青雁皮の熟した実


青雁皮は八重山に多く自生している

 八重山の土地開発の影響を受け青雁皮は減少しつつあり、この貴重な資源を絶やさない為にも栽培を広げる一方で八重山の宝である青雁皮の価値を八重山の人々に知ってもらいたいと思い研究所を開設した訳であります。



           平久保牧場に自生している青雁皮

ホームへ戻る

Copyright (C) 2005-2010 八重山青雁皮紙の研究 All rights reserved